〈選評〉神社での一瞬のドラマをとらえた作品です。手前にはヘルパーさんらしき人に補助されながらゆっくりと歩くご老人、そしてその奥には、新郎新婦とその左右にはおそらく二人のご両親が並んで記念写真を撮る後姿があります。長い人生の中には様々な出会いがありその中から様々な絆が生まれます。どのようないきさつでこの瞬間に出会えたのかはわかりませんが、人生の始まりと晩年の絆の姿が組み合わされた瞬間を見事にとらえています。偶然の出会いも撮影者の実力の内です。

〈選評〉隣に座る赤ちゃんが大泣きをして困惑している犬の様子をとらえたほほえましい作品です。泣いている赤ちゃんの隣にいるドーベルマンの表情を写真に近づいて見ると確かに困ったような表情をしています。このドーベルマンも家族の一員であるということが感じられる心温まる作品になっています。日常の中で起こる何気ない出来事を写真で記録することがこの作品を成立させています。撮影した時にはコンテストへの出品など考えていなかったでしょう。今後も気になった小さな出来事をどんどん写真に記録してください。

〈選評〉コキアで有名な観光地での秋の様子をとらえた作品です。この写真の形態を考えてみると、手前のコキアの丸い形、青い空に浮かぶ楕円の雲の形、そして、中央のやや下にある観光客の縦の線、また、色の組み合わせはコキアの赤、空の青、雲の白。作品はこのように非常にシンプルな構造になっています。そして、超広角レンズを使うことによって横に並ぶ人々の細部を弱くし、画面を分割する線(人が並んでいる場所)を下に配置して空を広く入れることによって空間をより広く感じさせています。撮影者の直感的感性が表れている作品です。

〈選評〉館山城址の土塁の石積の前での一瞬の出会いをとらえた作品です。かわいい顔のニホンカモシカがじっとカメラを見ています。写真を見る私たちもニホンカモシカに寄ってじっと見てしまいす。逃げる様子もないので慌てず静かに撮影できたのではないでしょうか。石積の下の部分が画面全体の3分の2を占め、ニホンカモシカのたたずむ林の部分を3分の1の割合にした構図になっています。この割合が写真全体に安定感を作っています。作者の一瞬の出会いに冷静に対応した撮影行為がこの作品を作り出しました。 

〈選評〉札幌の大通り公園の噴水の周囲でくつろぐ人々をとらえた作品です。おそらくさっぽろテレビ塔を入れた風景を撮影しようとしたのではないでしょうか。その風景の中に、集う様々な人々の様子を上手く画面に収めています。手前に写る人々の後姿が強いアクセントになっています。左の親子、真ん中のひとりの男性、右側の友達と思われる女性二人、そしてその奥に写る人たちの様子を見ると、そこには様々な人々の関係性が写っています。何気なく撮った写真の中にまさに沢山の繋がりが映り込んだ作品です。

〈選評〉夏のランタン作りのワークショップで制作したランタンを持ち寄り、10月の夜空に浮かべた「ねりまランタンナイト」の催しを撮影した作品です。中にあるLEDの光に照らされた無数のランタンが夜空に浮かぶ様子を美しく幻想的な印象でとらえています。露出をランタンにあわせ背景に闇の空間を作り出し、画面上部のランタンをそこに書かれた絵柄がはっきり見えるぐらいの大きさに写しこむことによって、細部の見えない暗部によってフラットになりがちな画面に遠近感を加えています。作者の写真的センスの良さが表れている作品です。

〈選評〉※特別賞は、組合員の皆さんの数々の素晴らしい作品の中で、惜しくも今回の選考で受賞されなかった作品の中から、都本部の松村委員長が選んだ1枚を特別賞として選出させていただきます。

松村委員長コメント/最近「春や秋が短くなった」と感じられている方も多いのではないでしょうか。私も、日本の四季感が無くなってきたのではないかと心配しているその一人です。赤や黄色、緑、オレンジなど、彩り豊かなグラデーションで移り変わる紅葉の写真を拝見した時、日本の美しい自然、日本の四季を未来に残したいと思いました。皆さんもこの作品を見て、これから何十年先、何百年先も美しい四季が見られるよう、地球環境について、今一度、考えてみませんか。

〈講評〉私は写真を見るといつも悩みます。被写体を見て良い写真だなと思っているのか、写真全体から感じる言葉にならない何かに感動しているのかと。写真は記録性と表現性からできています。記録とは客観的情報(現実の再現)のことです。表現とは主観的な撮り方(イメージの作り方)のことです。写真の本質には、このような相反する面が含まれています。そして、私たちは写真作品を見る時にこの両面の間を揺れ動いている心の状態になっているのです。正確に言えば、記録的要素の強い写真にも表現性はあり、表現的要素が強い写真にも記録性はあります。要するにどちらの面を画面上に強く出しているか、写真に含まれる記録性と表現性のバランスの問題です。そして、写真を見る面白さ、楽しさは、この両面を行ったり来たりする不安定な心の状態にあるのです。今回は上記のようなことを考えながら審査に臨みました。そして、写真を見る楽しさ、面白さを充分に味わいました。応募された作品の特徴として、「ネイチャー部門」は表現を意識した作品が多く、「繋がりの部門」は記録を意識した作品が多かったです。一般的な傾向として記録性の強い作品は、表現性の強い作品より写真の美しさに劣る傾向がありますが、そこに写る被写体や状況の背景や物語を想像しやすいです。つまり、直接写真には写らないものが含まれているということです。良い写真には目に見えるものと見えないものの両方が含まれています。皆さんも記録と表現の両面を意識しながら写真に撮り組んでみてください。今までとは異なる何かを感じとり、世界が広がるかもしれません。

 写真家 鈴木 邦弘さん

雑誌を中心にフリーの写真家として活動。『自治労通信』および『世界』などにドキュメンタリー写真を発表。93年「森の人・PYGMY」で第18回伊奈信男賞を受賞。日本写真芸術専門学校主任講師。日本写真家協会(JPS)会員。